※原作楽園の塔編です。
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俺は8年前、エルザを塔から出した。
傷つけるような方法で。
泣かせてしまうようなやり方で。
そんな手段でしか、あのときの俺にはエルザを守ることはできなかった。
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来なければよかったのに。
半ば他人事のようにそう思った。
目の前にはエルザがいる。強く俺を睨み付けてくる瞳。昔と全然違う。
けど、俺にはわかっていた。変わっているようでエルザは全く変わっていない。評議院にいた頃から、会っていた俺にはわかる。
今のエルザは昔の辛い思い出を封印している。真っ直ぐ未来を向いて生きていくために。強く見えるのはそのせいだ。
だから、ここに連れてきた。
思い知らせるために。始まりはここなのだと。所詮はかりそめの自由なのだと。
そう、思いながらも苦笑した。昔は誰よりもエルザの幸せを願っていたというのに。
エルザがもし、平凡で――誰にも存在を知られないような普通の人生を送っていたら、こうはならなかったかもしれない。
けど、エルザは普通以上に有名になった。意図的に後を追おうとしなかった俺が、気づくほど。
最初からこうなることなんて、わかっていた。
エルザの存在を知らなければ、胸を焦がすような焦燥を覚えても、昔、その手を離したことを後悔したとしても、エルザを自分のもとへ縛り付けることはできない。
けど、俺はエルザがどこにいるのか知ってしまった。知ってしまえば無視することなんてできないことなんて、初めからわかっていた。
エルザを連れてきた。楽園の塔まで。
エルザの仲間はわざと殺さなかった。助けにくることがわかっていたから。
これは賭けだ。
エルザの仲間が、この塔の連中を全員倒せば、あるいはエルザがこの塔から逃げ出せばエルザの勝ち。
けど、エルザがここまで来たら俺の勝ちだ。エルザはゼレフの生贄になり死んでいく。
そして、エルザはここまで来た。俺の目の前まで。たった一人で。
――来なければよかったのに。
――バカな奴だな。本当に。
エーテリオンが落ちてくる直前が最後のチャンスだった。
エルザが生き残ることができるチャンス。
俺を殺すことができるチャンス。
けど、それを逃した。ためらった。どこまでも優しくて――愚かな女。
殺せばよかったのに。
昔のきれいな思い出など捨てて。
俺を刺し殺せばよかったのに。
俺はおまえになら、殺されてもよかったというのに。
「う、ああ!」
エルザの身体に魔法をかける。
「が、うあ!」
エルザの左腕が魔水晶に吸い込まれる。
「おまえのことは愛していたよ。エルザ」
愛してた。
その髪も。その瞳も。その笑顔も。泣き顔ですら。
今、そうやって俺を悔しそうに睨み付ける表情でさえ愛しいよ。
でも、それと同じくらい憎んでもいるんだ。
俺の心を縛り付けるところが。
いくら望んでも俺のものにならないところが。
自分の醜さに気づかされるところが。
嫌で嫌で仕方がなかった。
エルザと再会したときから終わらない苦しみ。
この苦しみを終わらせる方法は一つだけ。
俺が死ぬか、エルザが死ぬかだ。
「ああああああっ!」
エルザの身体が魔水晶に融合していく。
「ジェラール・・・・・・・・」
俺はエルザを見る。恐らく、今エルザの瞳に映るのは冷たい無機質な瞳なのだろう。
「ジェラァーールゥゥ――!!!!」
エルザが左目から涙を流しながら叫ぶ。俺はただそれを黙って眺めていた。
これで、終われる。やっと終われる。
ごめんな。エルザ。こんなことになって。
信じないかもしれないけど、おまえに伝えた最後の言葉は本当だよ。
エルザ。おまえを確かに愛していたよ。
そして、今でも愛しているよ。
END
仕事で嫌なことあったストレスをぶつけたら救いようのない内容になりました。
気分がちょっと、鬱なので浮上するまで1行も書けそうにありません。直ったら、また投稿します。
終われる ジェラエル
- 理乃
- 2011/02/17 (Thu) 05:05:01