※「限界」の続きです。
~~~~~~~~~~~~
ジェラールは、いよいよ追い詰めれれていた。エルザがどんどん無防備になっていき、ジェラールの神経はそれに比例して、衰弱していく。
寝不足がたたり、ジェラールはとうとうギルドで突っ伏して居眠りをしてしまった。
エルザはちょうど、カウンターでミラジェーンと話し込んでいる。
「あら。エルザ、あれ放っといていいの?」
「?」
エルザがミラジェーンの視線の先を見ると、眠り込むジェラールの周りに、街の女の子たちが集まってきていた。
ジェラールはけっこう、ギルド外で人気がある。ギルドではエルザとの関係をみんなが知っているし、大体は特定の思い人がいるため、こういったことは少ないが、ギルドの酒場には街の人間も自由に出入りできる。
普段、あまり隙を見せないジェラールの無防備な寝顔が珍しいのか、女の子たちがきゃあきゃあ言いながら、魔水晶をを使ってジェラールの寝顔の写真を撮っている。
それを見る、エルザの表情がどんどん険しくなっていく。空気も張りつめていくのを感じたミラは、ため息をつく。
(ジェラールの奴、ギルドで何を寝てるんだ)
エルザ一筋のジェラールは基本的に他の女の子を受け付けないが、本人の意識がないのでどうしようもない。しかし、やはりおもしろくないエルザは、眠り込むジェラールを心の中で怒っていた。
だが、エルザが行動を起こす前にグレイが現れた。グレイはエルザの様子とジェラールの様子を交互に眺めると、ジェラールの頭を叩き、目を覚まさせた。
「・・・・・何をするんだ?」
「エルザの機嫌が悪くなってるぞ。周りに他の女の子たちがいるせいで」
ジェラールもそれで、自分がどんな状態だったか把握したが、もうギルドで眠らなければ、そろそろ睡眠不足で死にそうだ。
「どうかしたか?」
ジェラールはグレイに事情を説明した。話を聞いたグレイは「ここで話すのもなんだから」ということで、2階へと上がった。ジェラールとグレイ以外誰もいない。
「おまえ、エルザと一緒に寝てるのか?」
「・・・・ああ。だから、眠れなくて困ってるんだ」
確かに、男としてそれは辛いものがある。拷問に等しい。
「エルザがあまりに警戒しなくて、困ってるんだ・・・」
「・・・・・・・」
グレイにはエルザの態度に心当たりもあった。言うまでもなく、ナツとグレイの存在だ。幼い頃から一緒にいて、一緒に眠ることもあれば、お風呂に入ったことだってあった。だから、必要以上に男女の感覚が希薄なのかもしれない。
だが、グレイは本当の問題はそこではないと思っていた。ナツやグレイならともかく、ジェラールにその態度はおかしい。
エルザだって、ジェラールと身体の関係をすでに持っているのだ。そういったことに疎いとはいえ、ある程度の知識はある。グレイが聞いたわけではないが、エルザがそういった関係を軽くではなく、大切にしていたのはわかる。そういったことは、好きな人と思い思われてすることだと、エルザは知っていたはずだ。
では、一体なぜこんなことになっているのか――。
それはやはり、楽園の塔での一件が大きく関係しているだろう。
エルザはそれまで、男に対する免疫がまったくなかったと言っていい。普段、しつこく言い寄る男がいても、実力で問題なく排除していた。
だから、あの時が初めてだろう。単純に処女を奪われたというだけでなく――、生々しい欲望をぶつけられたのも、男としての欲求を肌で感じとったのも。
そのときの状況を見たわけではないが、エルザの話を聞いた限りでは、ジェラールの思いが伝わるわけがなかっただろう。そのとき、エルザが感じたのは、生々しい欲望と、身勝手な独占欲。
そのせいで、恐らくエルザの中で認識にズレが出たのだ。そういった関係が恋人同士のする愛に溢れた行為ではなく、ただの生理的欲求だと。
そう、今のエルザにとっては、身体の関係=生理現象として捉えられている。
だから、恋人同士になった今でも――だからこそというべきか、身体の関係を持つということに対して、恐怖心だけでなく不信感も持っているように見える。
だから、ことさら余計に子どもぽい振る舞いをしてしまうのかもしれない。無意識ではあろうが、そうしていれば、その先の関係を考えなくてもいいから。それと同時に確かめて安心しているのだ。今はきちんと大事にされているのだと。
「・・・・・おまえは言ったのか。エルザにこの状況は辛いって」
「言えるわけないだろ。また怖がらせる」
「言えよ。本音を伝えないと、いつまでたってもこの状態が続くぞ」
「・・・・・おまえはエルザを怖がらせてもいいっていうのか?」
「ああ。それでも伝えないといけないことがあるだろ」
「それはエルザにちょっと、厳しくないか」
「何とでも言えよ。エルザをレイプしたのは俺じゃない」
その言葉にジェラールが無言になる。
段階を踏んで、徐々に進んでいく関係であれば、こういったことは起こらなかっただろう。だが、、そこまでの関係に至るまでのプロセスが全くなかった。それはエルザが望んでいなかったため、エルザの責任ではないが。
今のエルザは――言い方は悪いが、身体だけ先に大人になってしまった状態。だから、普通の男女の付き合い方がわからない。
「言えよ。腹割ってちゃんと話せよ。納得いくまで」
きちんと話合う必要がある。その上で、エルザのズレた認識を戻さなければならない。
エルザに『愛』と『性』が=でなくとも、密接に繋がっているのだとわからせられるとしたら、一度エルザの認識をズラしたジェラールだけだ。
グレイはジェラールにアドバイスをすると、その場から立ち去った。
END
あれ?ゆーくさんのコメントに全然沿えてない。
なぜか、いつの間にか真面目な話になってしまいました。このシリーズはギャグ系でいくつもりだったのに。
これはやっぱり、私にはギャグが向かないということなのかと思ってます。
認識のズレ ジェラエル
- 理乃
- 2011/02/14 (Mon) 01:54:49