忘れない ジェラエル
――おまえの髪の色だった。
これが、何も記憶のなかった俺が、唯一思い出すことのできた記憶。
記憶のない頃から、なぜか知っていた『エルザ』。その名前からは不思議な懐かしさと日溜まりのような温かさを感じた。
そして、別れる直前に想い出したのも、やはり『エルザ』にまつわる記憶だった。
エルザの髪。エルザの色。エルザの名前。エルザの笑顔。
髪にちなんで、俺が贈った『スカーレット』。あんな酷いことをしたというのに、今でも大切にしてくれていた。
『もういい!!!!そこまでだ!!!!』
『ジェラールを・・・・つれて・・・・・・・・いけ・・』
震えていた声。彼女がこの結末を望んではいないことなんてわかってた。彼女はこの後、きっと泣く。また、俺のせいで涙を流す。
言葉をかけることができるなら伝えたかった。これでいいんだよ、と。その選択は正しいんだよ、と伝えたかった。
けれど、もう時間は迫っていて。伝えられる言葉は本当にわずかで。だから、どうしても言いたかったことを言った。
エルザだけにわかる言葉で。思い出したよと、今でも覚えているよと、そう伝えた。
エルザのハッとした表情。視線がぶつかったときのその顔を、俺はきっと一生忘れない。
名前の由来を思い出したときに一緒に思い出した、大切で、温かくて、優しくて――愛しい記憶。
俺が名前を贈り、『エルザ』が初めて『エルザ・スカーレット』になった日。恥ずかしそうに、照れくさそうに、頬を赤らめる顔。
俺は幸せ者だ。本気でそう思う。もう一度エルザに会えた。エルザのことを思い出せた。
この記憶があれば、これから先、どこでだって生きていける。
はにかんだように笑う笑顔が好きだった。サラサラの綺麗な緋色の髪が好きだった。どんな辛い中にいても、光を失わない真っ直ぐな瞳が好きだった。――エルザの全てが大好きだった。
『キレイな緋色・・・・そうだ!エルザ・スカーレットって名前にしよう』
『おまえの髪の色だ。これなら絶対忘れない』
そう、宣言した過去の自分。約束を破って一度、忘れてしまったけど、でも思い出したよ。
おまえの髪。おまえの色。おまえの名前。おまえの笑顔。
もう二度と忘れない。この大切な思い出を。
END
突発的にやりたくなった原作リメイク。しかも、あの名場面を選ぶなんて、自分どれだけチャレンジャーっていう感じです(汗)
こういうの書きたくなったのは多分、「自由にしてあげる」@幼少ジェラエルを書いたせいだと思います。
でも、全然書ききれませんでした(土下座)
- 理乃
- 2011/02/10 (Thu) 16:06:26