エルザはその日、ナツとグレイとルーシィ、それにハッピーと共に評議院に来ていた。理由は言うまでもなく、ナツとグレイの不始末が原因だ。
今回に限っては、他のメンバーは関係ないのだが、連帯責任でついてきた。
二人がお説教をされている間、二人と一匹は廊下で待っていた。そこに評議院の使者がやってくる。
「エルザ・スカーレットか?」
「ああ」
「評議員が呼んでいる。来い」
「ちょっと、いきなり勝手なことを――」
ルーシィとハッピーが抗議の声をあげようとするのを手で制して、
「いや、いい。行ってくる」
そう言って連れて行かれた先は、やはりと言うかなんというかジークレインのところだった。
「何か用か?」
「あのことは誰にも言ってないのかと思ってな」
「おまえが脅迫してるんだろ。言ってない」
「そうか」
ジークレインが楽しそうな表情で自分を睨みつけるエルザを見る。
ジークレインはエルザと再会してからというもの、わざと神経を逆なでするような言動を繰り返していた。
そのせいもあってか、エルザはジークレインを冷たい眼差しでしか見なくなった。――計算通りに。
エルザが睨みつけている視線を外して、窓の外を眺めると、ぽつりと言った。
「ジェラールは元気か?」
ああ。まただ。たった一言で心がざわつく。なぜこんなことを言うのか。
しかし、こう言われて気持ちがざわめくのは、気にかけられて、嬉しいと感じている証拠ともいえる。
気にしてほしくない。
――気にしてほしい。
変わってほしい。
――変わらないでほしい。
忘れてほしい。
――忘れないでほしい。
嫌いになってほしい。
――嫌いにならないでほしい。
エルザに会うといつだって、矛盾した感情を抱えて苦しむ。それに苛立ち、辛く当たってしまう。悪循環の繰り返し。
自分でも、この気持ちがまともな人間の感情と違うことなどわかっている。
――憎んでる。でも、愛してもいるなんて。
「・・・・・ジェラールは元気だよ。塔を完成させようと頑張ってる」
「・・・・・」
「ジェラールはおまえのことなんて、忘れてるよ。おまえはもう過去の人間だ」
「・・・・・そうだな」
しばらくして、答えた声は辛そうだった。わかってはいたが、ジークレインの胸もズキンと痛む。
結局こうなる。
傷つけたくないと思いながら、傷つけてしまう。矛盾していると知りながら。けど、そうするほかない。
エルザを取り返しがつかなくなるほど、傷つけてしまう前に。
その前に、自分を嫌って離れてくれるように。過去の優しい思い出を塗りつぶすような、酷い人間になったのだと見せて。
自分のような人間には、人を傷つけるような言葉や態度でしかエルザを守れないから。
だから、ジークレインは、矛盾した感情を抱えて、いつものように何食わぬ顔で嘘をついた。
END
相変わらず暗いジクエル更新しました。
今回は正反対の『矛盾』という感情にスポットを当ててみましたが、難しすぎて玉砕しました。
矛盾 ジクエル
- 理乃
- 2011/02/06 (Sun) 03:06:38